44歳からの留学 ― 米国管理栄養士の、事の始まりから現在まで ー 余談⑳認知症

私の勤めている退役軍老人ホームは、もともとは6ユニット(各42床、計252床)オープンしていたものが、パンデミックで、4ユニットに縮小した。理由は、沢山のお年寄りが亡くなったこと(40-50人)、感染を防ぐための新たな入居手者続きの停止(2020年4月頃から2021年8月まで)、辞職等による人員不足、などが挙げられる。辞めていった人々の理由は、憶測だが、コロナ感染,  長期コロナ感染症、ワクチンによる後遺症、強制のワクチンに同意できない等々だろう。私の強制のワクチンへの抵抗については、余談②⑥⑦で書いた。

前置きが長くなってしまったが、本題にはいりたい。職場で、私がダイエティシャン(管理栄養士)として現在担当している二つのユニット(合計約80名)のうち、一つのユニットは、ほとんどの入居者が認知症を患い、もう一つのユニットでは、半数以上が認知症をもっている。そんな中で、二人だけ、私の名前を憶えて呼んでくれ老人がいる。90代後半のジョージは、食事巡回の時にいつも、「ユーコ、いつも立ち寄ってくれてありがとう、今日も良い一日を」と言ってくれる。80歳半ばのボブは、私をみると「ユーコ、ユーコ」と呼んで、あれこれ注文してくる。できることは約束し、出来ないことは説明すると、ちゃんと理解してくれるし、金曜の午後に会うと、「よい週末を」と言ってくれる。そんな、短くても意味のある会話ができることが、本当にうれしい。

70代半ばのリチャードは、癌を含む様々な慢性疾患をもっているが、頭脳明晰で、冗舌、またスマホを片時も離さない。あるとき彼は、今アメリカで立て続けに起こっている発砲事件について、スマホを示しながら私に話しかけてきた。日本では発砲事件がごくまれなことを知っているからだった。私もそれについては、「最悪だ」と言うと、彼は「でもアメリカは最高の国でもあるよ、だからあなたはここにいるんだ」と言った。全くその通りだった。彼は見事に私を論破した。またある時は、レクリエーション活動の一環として行われた魚釣りに彼が参加した翌日、その大成果の写真を私に見せてくれた。

そんなリチャードなのだが、施設内の医師の毎月の医療リーポートに認知症という診断がつけられているのを発見した。入居時のリポートには、認知症は含まれていなかった。だが、その後のリポートから現在にいたるまで必ず、認知症が含まれている。そのリポートの診断コード欄には、「軽度の認知症」とあった。でもどうしても腑に落ちないので、その医師にたずねてみることにした。その答えは、「短期記憶」であるからだという。そう言われれば、思い当たるふしもある。リチャードが、私に釣った魚の写真を見せてくれた後、わたしは食事巡回を続けて、また戻って来てリチャードのわきを通りがかった時、彼がまた写真を私に見せようとしたのだ。「それ見た」と私が言うと、彼もすぐに「そうだった」と思い出したのだったのだが。でもそれだけではないのかもしれない。医師は何かをキャッチしたのかもしれない。リチャードの生末を考えて哀れを感じた。

認知症の研究は最近さらに進んでいる。認知症を防ぐには、健康的な食生活は大前提だが、運動が重要であると益々強調されて来ている。歩くことや、掃除・買い物も含めて体を動かすことを30分、週三回以上すると認知症の発症が有意に下がるという。私自身は、ミニトランポリンで毎日20分位、手の動きも組み合わせてバウンシング(軽い飛び跳ね)をしている。これは認知症予防はもとより、リンパの流れを促し、免疫力もあがり、お勧めだ。

 

堀尾シェルド裕子