44歳からの留学 ― 米国管理栄養士の、事の始まりから現在まで ー 余談㉗味付けのない野菜

そもそも、平均年齢が92歳という、運動量も極端に少ないお年寄りたちに提供する食事が3食で、総合カロリーが2000kcal近くあるということが、私には、理解できない。これだけやっときゃ文句は言わせないということなのか。以前、私自身の摂取カロリーを、栄養学の授業で、各自記録し、レポートにしなければならなかったことがある。私は身長163cm (アメリカ人女性の平均身長)、体重は当時53kg位だった。運動量は、スポーツは特にしていないが、キャンパスを歩き回る、中程度だった。結果として、その時の私の平均摂取カロリーは一日1600kcalだった。この数字は、後に修士課程で取った老人栄養学で聞いた、老人の平均必要カロリー約1600kcalというのと同じだった。2000kcalというのは、アメリカの成人男女の一般的な必要カロリーとして、よく言われる数字だ。だから、2000kcalの食事をお年寄りに提供して、食べろ食べろというのは、無謀なことだと私は思っている。施設では毎食の摂取量がパーセンテージで記録される。なので、私は、小柄な女性や、食の細いお年寄りのポーションサイズ(分量)を、それが適切と思った時点で少なく調整する。それはミールチケットに反映される。そうすれば、分量が少なくもられるので、食べ残しも減り、とやかく言われることも減り、平和でいられるだろうとの思いからだ。

私は、12歳の時に心臓に雑音があると言われ、検査入院を一週間ほどしたことがあるのだが、検査以外は寝ているだけなので、育ち盛りと言えども、お腹はあまり空かなかった。朝食の後に、すぐ昼食の時間がやってきて、食欲のないまま、食べることになった。そして下痢をした。著書のなかでも書いたように、私は下痢体質でもあったので、食べたくもない昼食を無理やり食べるとその結果はすぐに出て、苦痛だった。だから、お年寄りに準備される過剰カロリーが、ことさら気になるのだ。

それからもう一つ。お年寄りはよく野菜を残す。昼食と夕食の白いお皿には、プロテインとしての肉や魚が、スターチとしてのポテト類、ライスなどが、そして温野菜がもられる。その野菜がよく残される。それで私はよく、野菜は大切だから食べるようにと言って回ったものだった。ところが、ある時味見をしてみて驚いた。味付けがされていないのだ。野菜が蒸されるかゆでられただけ。美味しくもなんともない。二口めを食べる気もしない。こんな野菜を出されていたのかと合点がいった。その後レストランのメイン料理につく野菜にも味付けがされていないことに気がついた。テーブルに置かれた塩と胡椒で、各自味付けをしろということらしい。なんとこの国(アメリカ)は!

間欠的断食をしているものとして(私は一日二食)、施設のお年寄りへの過剰カロリーが、また、日本料理を知っている日本人として、味付けのない野菜が提供されていることに、耐え難いものがある。

 

堀尾シェルド裕子