44歳からの留学 ― 米国管理栄養士の、事の始まりから現在まで㊷

こんにちは。『44歳からの留学 -67歳現役米国公認管理栄養士、20年の奮闘記』(Book Trip)の著者のYufiこと堀尾シェルド裕子です。私の体験が、これから留学を考 えている人、米国で管理栄養士になることに興味のある人に役立てることを願っています。また物見遊山でこのサイトをみた方、野次馬も歓迎です。コメントもよろしくお願いします。

 

ビンセントからの連絡で、事態は一変した。試練続きだった私が得た褒賞。

 

著書より前回の続き

 

ニューヨーク州立べテランズ・ホーム(退役軍人老人ホーム)

 

 かくして、2013年(平成25年)4月から、ウェストチェスター郡モントロースにあるニューヨーク州立べテランズ・ホーム(退役軍人老人ホーム)で働き始め、現在に至る。自宅から車で17分で行ける。施設は、6つのユニットで各42床、計252床で、リハビリテーション科もある。

 私の属しているのは勿論、食料栄養課(Food and Nutrition Department)、そしてその中の臨床チーム(Clinical team)である。そのチームは、RD でもあるディレクターのビンセントを筆頭に、私も含めて二人のRDと、二人のダイエテックの計5人からなる。

 毎朝9時から始まるモーニング・リポートにチームを代表して一人が出席し、書きとったものをメンバー用にもコピーする。9時20分頃から我々臨床チームだけのモーニング・リポートがあり、そこで、先の看護師たちのモーニング・リポートに出席したメンバーが、そのコピーを読み上げて報告する。私は実は、その代表の役割にはほとんどならない。あの看護師たちの速い報告を聞いて、合いの手を入れることだけだったら問題はなくなったが、患者の名前や報告された問題点をも書き留めるのは至難の業だ。残念だが、その現実は受け入れて、残りの4人のメンバーに任せようと観念している。ビンセントからの伝達等がなされて、チームのモーニング・リポートは終わり、いよいよ仕事に取り掛かる。

 RD の仕事は、スケジュールに従った入居者の栄養評価、毎月の体重管理と不安定な体重の入居者の管理ノート、褥瘡(床ずれ)巡回、その巡回リストに基づいた栄養的な側面からのリストの作成、定期的な入居者、家族、スタッフのミーティングへの参加、医療チームから依頼された入居者の栄養評価、そして朝食と昼食時の巡回等々だ。

 確かに、ここでの仕事は、病院で遭遇するような様々な疾患に対応する、臨床ダイエティシャンとしての刺激は少ないが、それでも、折々に起こる問題点を看護師や医療チームに照会したり解決したりし、総合的なケアチーム(interdisciplinary team)の一員であることには変わりはない。また、経腸栄養法(静脈栄養法はこの施設では現在受けつけていない)の計算、指示は看護師にも(病院などの極一部の医師を除いて)医師にもできないので、これらはダイエティシャンの独擅場である。

 施設の入居者は、退役軍人かその配偶者のみで、平均年齢が92歳という高齢だ。各42床、6ユニット、計252床で、頭脳明晰な入居者のいる二つのユニット、認知症が進んでしまっている入居者のいる二つのユニット、残りのユニットは入り混じっているユニットだ。二人のRDはそれぞれ3ユニット、126床を担当している。高齢なので、毎週のように誰かが死亡する。

 食事時の巡回で、メニューの不平不満を聞いて、取ったり加えたりの変更も忙しい。もうてっきり、ボケてしまっているのかなと思いつつ、声をかけると、ちゃんと応答したりすることがあり、驚くこともしばしば。ある時、死の床についている入居者に声をかけてみると、彼は薄目を開けて頷いた。私は驚き、直ぐに声を出して彼のために祈った。彼は私にありがとうの目くばせをした。

 

ニューヨーク州立べテランズ・ホームの職場・規則・賃金

 

 この施設は、ニューヨーク州立なので、ダイエティシャンも含めて従業員の全てはニューヨーク州政府の保健省(Department of Health)に属している。つまり公務員(civil service)だ。そして組合があり、皆が公平に守られている安心感がある。むやみに解雇されることはない。但し、原則年に一度、または必要に応じて随時、上司から仕事の各側面の評価があり、場合によっては,カウンセリング、ひいては解雇につながることもある。また、評価に減点があれば、5年目、10年目のボーナスはもらえない。公務員になるためには、それぞれの職種に応じた試験があり、パスしなければならないが、ダイエティシャン、看護師、ソーシャルワーカーなど、資格を持つ職種の場合は、それらの資格が公務員試験の代わりとなっている。 

 またアメリカには、この施設に限らず、1967年に制定された年齢差別を禁ずる法律により、定年制はない。現に今働いている施設に85歳のエミーがいる。とはいえ、アメリカでも80代でフルタイムで働いている人は珍しく、5年前、彼女が80歳になる誕生日には、施設の皆でお祝いをした。彼女は今でも、人事課の事務を担っており、施設内をさっそうと行き来している。連邦政府の年金(Social security)は満額でもらえるのが66歳(1960年生まれ以降は67歳)からだが、一年延ばすごとに70歳まで、8%づつ増額する。

 一口にニューヨーク州政府の公務員の仕事と言っても様々だ。会計士、ドライバー、清掃員、エンジニア、ペンキ塗装者等々。賃金体系は、それぞれの仕事の内容に基づき、教育のレベル、経験に応じてサラリーグレード1から38に定められている。「ダイエティシャン1」はサラリーグレード16、「ダイエティシャン2」はグレード18。但し、「ダイエティシャン1」は資格試験を受ける資格があるけれども、まだ資格は持っていない段階を示すので、「ダイエティシャン1」の募集は見かけたことがない。「サラリーグレード18」の2018年度の年収は56,604 - 71,980ドルとなっている。ちなみに、「ドライバー」はグレード7で30,908 - 39,941ドル、「ダイエテック」はグレード11で38,464 - 49,417ドル、「ソーシャルワーカー1」はグレード18、「ソーシャルワーカー2」はグレード20で62,726 - 79,577ドル, そして、「臨床医師」はグレード36で143,381 - 171,631ドルだ。悲しいかな、組合と州政府の交渉がまとまらず、2018年以降の昇給が未だにない。

 もう一つ特筆したいことは、ニューヨーク州の公務員には、連邦政府の年金の他に、ニューヨーク州の年金制度があり、職員は自動的に加入する。そして最低10年働き、掛け金を収めると、そのニューヨーク州の年金がもらえる。これは思いもかけぬ特典だった。

(続く)